東京地方裁判所 昭和32年(行)29号 判決 1963年1月31日
判 決
原告
雅叙園観光株式会社
右代表者代表取締役
松尾国三
右訴訟代理人弁護士
宮内巌夫
被告東京国税局長
竹村忠一
右指定代理人(検事)
堀内恒雄
同(同)
関根達夫
同(同)
広木重喜
同(同)
河津圭一
同(法務事務官)
那須輝雄
同(大蔵事務官)
西山要三
同(同)
青木茂雄
同(同)
喜井晨男
右当事者間の昭和三二年(行)第二九号課税処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者双方の申立)
第一 原告訴訟代理人は、次の趣旨の判決を求めた。
一 被告が原告の昭和二八年九月一日より昭和二九年二月二八日に至る事業年度の法人税につき、昭和三二年一月二三日付でした審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
第二 被告指定代理人は、次のような判決を求めた。
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
(当事者双方の主張)
第一原告訴訟代理人は、請求の原因及び被告の主張に対する反論として次のとおり述べた。
一原告会社は、昭和二八年九月一日より昭和二九年二月二八日に至る事業年度(以下本件事業年度という。)の法人税につき昭和二九年四月三〇日、所得金額を金一八、五六四、三六三円として確定申告をしたところ、目黒税務署長は、昭和三一年三月二〇日付で所得金額を金四三、八八五、九〇〇円法人税額を金一八、四一三、七四〇円とする旨の更正処分(以下本件更正処分という。)をし、同年四月一日原告会社に通知した。
原告会社は、本件更正処分のうち一部を認容したが、他の部分を認容することができなかつたので、昭和三一年四月二八日、被告に対し審査の請求をしたところ、被告は、昭和三二年一月二三日付で右審査の請求を棄却する旨の決定(以下本件審査決定という。)をなし、同年一月二五日原告会社に通知した。
二本件審査決定の通知書には、法人税法第三五条第五項にいう理由の附記がないので違法である。右通知書には審査決定の理由として「貴法人の審査請求の趣旨、経営の状況その他を勘案して審査しますと、目黒税務署長の行つた更正処分には誤がないと認められますので、審査の請求には理由がありません。」と記載されているが此の程度の抽象的な記載は法人税法第三十五条第五項で要求されている「理由の附記」には該当しないというべきであつて、結局において右通知書には法律の定める理由の附記がないものといわなければならない。
三本件事業年度における原告会社の所得金額は金二一、七一五、八九五円であるから、これを金四三、八八五、九〇〇円と算定た本件更正処分は違法であり、したがつてこれを認容した本件審査決定もまた違法である。
原告会社の申告した本件事業年度の損益計算は別紙第一表申告額欄記載のとおりであるが、本訴においては目黒税務署長による更正金額を一部認容して同表原告本訴主張額欄記載のとおり主張する。しかして本件更正処分のうち仮受金中否認額金三〇、五五〇、七一五円を利益に加算し、減価償却費超過額金一、六一九、三七五円を損失より控除した部分の不当である理由は次のとおりである。
(一) 原告は昭和二九年二月一七日訴外株式会社西日本相互銀行(以下単に西日本相互銀行という。)との間で締結した福岡雅叙園ホテルの売買明渡契約に基き同日同銀行から金四六、〇〇〇、〇〇〇円を受領し、さらにその頃右金員のうち、金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を訴外平和興行株式会社(その後商号を変更して松尾興行株式会社と称し、さらに富士興行株式会社と称した。以下平和興行という。)に対して交付し、本件事業年度末において右金四六、〇〇〇、〇〇〇円を仮受金、右金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を仮払金としてそれぞれ会計処理したが、右会計処理は次のとおり正当である。
(1) 別紙第二表物件目録記載の建物(以下本件建物という。)は、もと訴外松尾国三(原告会社代表取締役)の所有であり、同人がその一、二階で映画館を、三、四階で福岡平和館の名称でキャバレー、ダンスホールを経営していたが、昭和二三年四月二日右建物は西日本相互銀行(当時は西日本無尽株式会社)に、地下室は即日一、二階は同年五月末日までに、三、四階及び屋上は同年一二月末日までに、それぞれ明渡しをする特約のもとに売却され、一方同年四月三〇日松尾を代表取締役とする平和興行が設立され、同会社が同年五月一日松尾から福岡平和館の残存設備、営業権(三、四階の賃借権は松尾が西日本相互銀行から取得したのち、平和興行に譲渡するものとし、その権利移転は後記のとおり昭和二四年一月一日であつた。)等一切を金五、七〇〇、〇〇〇円で譲り受けて本件建物の三、四階でキャバレー、ダンスホールを経営するにいたつたが、松尾は、昭和二三年一二月一〇日西日本相互銀行と折衝して本件建物の三、四階に関する前記特約(同年一二月末日までに明け渡すこと)を廃棄し、あらためて右部分について賃借期間を昭和二四年一月一日以降一〇年間、賃料毎月金七〇、〇〇〇円とする賃貸借契約(以下本件賃貸借契約という。)を結んだが、右契約には松尾において同人が代表取締役となつている会社に対し、賃借権を譲渡転貸することができる旨の特約が付せられていたので、同人は右契約締結後直ちに本件家屋三、四階の賃借権を平和興行に譲渡し、同会社は昭和二四年一月一日以降毎月金七〇、〇〇〇円の賃料を支払つて右建物でキャバレー、ダンスホールを営んでいた(被告は、松尾から平和興行への本件賃借権の譲渡の事実を否認するが、右賃貸借契約に先きだち昭和二三年五月一日以前から右建物でキャバレー、ダンスホールの経営が引き続きなされていたのであるから、西日本相互銀行としても右建物が右用途に使用されることは予想していたはずであるし、西日本相互銀行が昭和二四年一月以降の賃料を平和興行から直接受け取つている事実に徴すれば西日本相互銀行が平和興行への賃借権の譲渡を認めていたことが明らかである。)が、昭和二四年九月上旬頃にいたり原告会社と平和興行との間で、前者が新たに投資をして行うホテル経営に使用するため、後者が後記(4)に示されている簿価計金三、五〇二、五四三円七六銭の本件建物の三、四階の賃借権(営業権)、キャバレー、ダンスホールの設備等を前者に対し無償で提供し、前者が新たに投資をしてホテル事業に適するよう設備、什器、備品等を投入し、福岡雅叙園ホテルの名称のもとに原告会社がホテル経営をなし、利益及び損失は互いに折半する旨の共同経営に関する契約を結び、平和興行は同年九月一六日、原告会社は同月二八日それぞれ取締役会の承諾を受け、次いで平和興行は同年一一月二〇日、原告会社は同月二五日それぞれ株主総会の承認決議を経た。その結果福岡平和館は昭和二四年九月三〇日に閉鎖し、同年一二月から福岡雅叙園ホテルが開業した。なお、昭和三四年一〇月二八日本件建物の三、四階につき賃借人松尾が原告会社にこれを転貸するという内容の契約が結ばれたことは認めるが、これはホテルの経営が対外的に原告会社によつて行われていたところから形式上松尾の賃借権を原告会社が転借したようにしたものにすぎず、実質的な賃借権はいぜんとして平和興行に属していたのである。
(2) 昭和二九年二月一七日、原告会社及び平和興行(但し原告会社において代理)は西日本相互銀行との間で本件建物の三、四階部分につき次のような趣旨の契約を締結した。(被告は、平和興行が原告会社を代理人として上記契約の当事者となつたことを否認するが、後述のとおり平和興行の有する賃借権が右契約の目的の一部となつている以上平和興行がその当事者となつていることは明らかである。)
(イ) 西日本相互銀行は、福岡雅叙園ホテルに設備した屋上の建築物、什器備品の買収代金、営業権(平和興行が賃借人となつている昭和三三年一一月三〇日までの約五ケ年の賃貸借の残存期間の営業権)及び従業員の解雇手当の補償として原告会社に対し金四六、〇〇〇、〇〇〇円を即日支払うこと。
(ロ) 右建築物、什器備品の引渡した即日、所有権移転の時期は次項(ハ)の協定の成立時とし、本件建物の屋上に居住する者の立退きは同年二月二二日までとすること。
(ハ) 前記金四六、〇〇〇、〇〇〇円の有形無形の財産価格及び営業の補償をいかに配分するかは後日両者間で協定すること。
その結果、原告会社は西日本相互銀行から金四六、〇〇〇、〇〇〇円を同日受領したが、原告会社の提供にかかる資産と平和興行の提供にかかる賃借権の評価区分については本件係争事業年度末までに協定されなかつたので、原告会社はこれを全部仮受金として受け入れ、さらにとりあえずそのうち金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を平和興行に仮払金として交付して会計上そのように処理した。なお原告会社がかような会計処理をしたのは西日本相互銀行が右金四六、〇〇〇、〇〇〇円を仮勘定に計上したのに便乗したものではない。このことは原告会社が西日本相互銀行より経理処理の報告を受けたのは昭和二九年三月三一日であることによつて明らかである。
(3) 昭和二九年三月三一日、原告会社及び平和興行と西日本相互銀行との間に前記金四六、〇〇〇、〇〇〇円の配分に関し次のような協定が成立した。
(イ) 補償金(但し平和興行の賃借権(本件建物三、四階部分約四〇〇坪を坪当り二五、〇〇〇円で計算)の補償金一、〇〇〇、〇〇〇円を含む。) 二九、九六二、〇〇〇円
(ロ) 動産(原告会社所有) 八、一二一、五〇〇円
(ハ) 建築物等(原告会社所有) 七、九一六、五〇〇円
右協定成立の経過は、同月初旬西日本相互銀行から原告会社に対し譲渡資産の評価をしたいから書面をもつて示されたい旨の申入があつたので、同月中旬乙第六号証の二と同一内容の資産一覧表を同行に提示したところ、同行ではこれに異議なく同月三一日付で甲第九号証の文書を原告会社に交付して同日同協定が成立したものである。なお、平和興行が共同経営に提供した有形固定資産(後記(4)の資産のうち、営業権を除いたもの)は、西日本相互銀行に対する売却物件に含まれておらず、これは平和興行において廃棄処分に付した。
(4) 右協定の結果平和興行は原告会社から前記共同事業契約の利益折半の約定により少くとも右補償金二九、九六二、〇〇〇円の二分の一を受領する債権があることが確定したので、昭和二九年三月三一日の決算期において、さきに原告会社から受領した仮受金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を本勘定に移し、これから前記共同経営のために提供した次の固定資産の昭和二九年三月三一日現在の簿価金三、五〇二、五四三円七六銭を差し引いた残額金六、四九七、四五六円二四銭を固定資産売却益として計上した。
(イ) 附帯設備 一、九六九、九八一円四四銭
(ロ) 機械及び装置 四九五、四六五円四一銭
(ハ) 車輛及び運搬具 五、六二四円八六銭
(ニ) 器具備品 三九九、七六四円七二銭
(ホ) 営業権(賃借権) 三〇三、三三三円三三銭
(ヘ) 消耗備品 三二八、三七四円
合 計 三、五〇二、五四三円七六銭
(5) 昭和二九年四月三〇日、原告会社は平和興行との間で福岡雅叙園ホテルの閉鎖に伴う最終的清算を行い、次のような損益配分を協定し、原告会社はこの協定に基いて平和興行に対し新たに金一一、五九〇、〇二五円五〇銭を交付した。
(イ) 西日本相互銀行からの受入金 四六、〇〇〇、〇〇〇円
(ロ) 原告会社の固定資産代 一六、〇〇三、七三九円
(ハ) 平和興行の固定資産代 一〇、〇〇〇、〇〇〇円
(ニ) 差引益金((イ)―((ロ)+(ハ))) 一九、九九六、二六一円
(ホ) 右売却利益金の二分の一 九、九九八、一三〇円五〇銭
(ヘ) 営業利益(昭和二四年一二月ないし昭和二九年二月)の二分の一 三、九六六、三八五円
(ト) 右営業利益に対して原告会社が支払つた原告会社の第四、五、七期分法人税の二分の一 二、三七四、四九〇円
(チ) 新たに交付すべき分配金((ホ)+(ヘ)―(ト)) 一一、五九〇、〇二五円五〇銭
(6) 原告会社は、昭和二九年八月三一日の決算期において前記仮勘定を全部本勘定に振り替え、前項記載のとおり金一一、五九〇、〇二五円五〇銭を平和興行に分配交付したことに基く決算を行い、これによつて確定申告をした。
(7) 以上のとおり原告会社が昭和二九年二月一七日西日本相互銀行から受領した金四六、〇〇〇、〇〇〇円、平和興行に交付した金一〇、〇〇〇、〇〇〇円は、本件事業年度末において未確定であつたから、これを仮勘定として会計処理をしたのは正当である。
(8) 平和興行がキャバレー、ダンスホール経営のために使用していた附帯設備、機械及び装置、器具備品等(前記に記載のもの)のうち食器類の他は大部分ホテル事業には使用されず(但し、大博劇場に保管されたことはない。)、これを昭和二五年一二月六日訴外別府悟に代金二、五〇〇、〇〇〇円で売却したことは認める。
しかし、右売買契約は、同日同訴外人から右代金支払のために振り出された金額二、五〇〇、〇〇〇円の約束手形が不渡りになつたことなどのため、昭和二八年一〇月三一日に解除され、平和興行は右資産について所有権等一切の権利を回復し、原告会社及び平和興行と西日本相互銀行との間で前記売買契約の締結された昭和二九年二月当時においてもこれら資産についての権利を有していた。その前後の事情は次のとおりである。
平和興行が別府悟に売却した資産の明細は前記(4)に表示のとおりであつて、その簿価は金三、五〇二、五四三円七六銭であつた。平和興行はこれを昭和二五年一二月六日に代金二、五〇〇、〇〇〇円で別府悟に売却したのであるが、別府は右代金支払のために同日、平和興行に対して同額の約束手形を振り出して交付した。平和興行はこれを受取手形として受け入れ、簿価との差額金一、〇〇二、五四三円七六銭を固定資産売却損として計上し、売却した資産を簿価のまま貸方に計上して落とした。右手形は昭和二七年四月一日に、訴外松尾国三が別府悟に肩替りして手形金二、五〇〇、〇〇〇円及びその手形金に対する昭和二五年一二月六日以降昭和二七年三月三一日までの日歩三銭の割合による利息三一五、七五〇円を同訴外人の平和興業に対して有していた貸付金債権と対当額において相殺したために同年四月一日別府に対する右利息請求権とともに同訴外人に譲渡された。そのため、昭和二七年九月末(第九期)において、右受取手形及び利息債権が平和興行の帳簿に計上されなかつたのである。
ついで、昭和二八年一〇月三一日、右手形が不渡りになつたことなどのために、平和興行は別府悟に対し前記売買契約を解除し、前記資産全部について所有権等一切の権利を回復し、そのため金額二、五〇〇、〇〇〇円の約束手形を振り出して右訴外人松尾国三に交付した。この取引により平和興行はさきに固定資産売却損として計上した金一、〇〇二、五四三円七六銭と同額を雑収入として計上し、取戻した資産を旧簿価と同額の金三、五〇二、五四三円七六銭として受け入れた。そして、昭和二九年三月三一日平和興行は原告会社を経由して西日本相互銀行から受け取つた金一〇、〇〇〇、〇〇〇円で右資産(営業権以外の有形固定資産は前記(3)(ハ)のとおり廃棄処分にした)を西日本相互銀行に譲渡したのである。
その会計上の処理は前記(4)のとおりである。なお被告は平和興行が提供した資産につき原告会社の会計上受入れがなされていないことをもつて両者間に共同経営の実体がなかつたことの一つの理由としているが、共同事業に資産の使用権を無償で提供する場合においては、これについて会計上受入処理の方法はないのであるから、被告の右主張は理解しがたいところである。
(9) 被告は、原告会社と平和興行との間には共同経営の実体がないのに両会社が社長を同じくし、かつ同族会社であるため福岡雅叙園ホテルの閉鎖に伴う多額の売却益に対する法人税課税を免れるため両会社において適当に会計の操作を加えたものであると主張するが、右主張の背後には当時平和興行が赤字会社であつたため、共同経営の利益金が同会社に受け入れられても赤字が減少するだけで法人税を賦課することができないという考えがあるように思われる。しかし、平和興行の経理においてさしあたりは赤字の減少という効果があるにすぎないとしても、それは結局将来課税の対象となる所得を生ずる時期を早めることになるし、しかも法人税法上赤字の繰戻しないし繰延べという制度が認められているのであるから、法人税課税の対象が不当に減少することにはならない。
(二) 別紙第一表損失の部減価償却超過額の原告本訴主張額欄記載の金額と被告本訴主張額欄記載の金額との差額金一、六一九、三七五円(本件係争分)は、前記原告会社及び平和興行と西日本相互銀行との間に結ばれた売買契約において売買の対象となつた建築物、什器備品(簿価合計金一五、四四九、二八五円)の法定減価償却額であるが、目黒税務署長は、右資産は本件事業年度末においてはすでに原告会社の所有ではなかつたとの理由で、本件更正処分において右減価償却額の算入を否認した。被告も右否認をもつて正当であると主張するのであるが、しかし、右資産は契約の際には即日これを本件家屋とともに引き渡す約定であつたけれども、その後種々の事情で引渡しが延引し、昭和二九年三月に入つて漸くその引渡しを完了したものであるから、本件事業年度末において右資産はなお原告会社の所有であつたのであり、その減価償却費を計上したのは何ら不当でない。昭和二九年二月末日現在において右資産が原告会社の所有であつたことは次の事実からも明らかである。すなわち、福岡雅叙園ホテルに原告会社が設備した有形資産の簿価は昭和二九年二月末日現在において金一五、四四九、二八五円であつたので、もし同月一七日にその所有権が西日本相互銀行に移転していたとすればその買収価格は特段の事情のない限り右金額によるはずであるのに、同年三月三一日に西日本相互銀行から原告会社に通知してきた金四六、〇〇〇、〇〇〇円の配分においては、前述のとおり動産金八、一二一、五〇〇円、建築物等金七、九一六、五〇〇円、その合計金一六、〇三八、〇〇〇円となつており前記金額との間はかなり差異がある。これは原告会社が昭和二九年三月に入つてから再評価後の前記資産の新しい簿価金一六、〇〇三、七三九円(旧簿価金一五、四四九、二八五円から期末の減価償却費金一、六一九、三七五円を差し引き、さらに三月一日の期首において第三次の再評価をなし、評価益二、一七三、八二九円を加算したもの。)により西日本相互銀行と配分の協定に関し交渉したところ同銀行が右の数字を見誤つて金一六、〇三八、〇〇〇円として通知してきたのであり、要するに西日本相互銀行は同年三月に入つてからの原告会社の簿価をもつて有形資産の買入価格としているわけであり、このことは、右資産の所有権が三月に入つてから移転したことを裏付けるものに外ならない。
(三) かりに原告会社が西日本相互銀行から受領した金四六、〇〇〇、〇〇〇円、平和興行に対して交付した金一〇、〇〇〇、〇〇〇円をそれぞれ仮勘定として処理したことが不当であり、所得計算上本件事業年度末においてその配分が確定したものとして本勘定によつて処理すべきであるとしても、前述のとおり福岡雅叙園ホテルは原告会社と平和興行との間の共同経営にかかるものであつて、両者間には損益折半の特約があつたのであるから、平和興行の賃借権に対する補償金一〇、〇〇〇、〇〇〇円共同経営にかかる昭和二四年一二月から昭和二九年二月までの利益の半額金一一、五九〇、〇二五円五〇銭((一)(5)参照)は、本件事業年度において平和興行に対する債務(負債勘定)として控除されるべきものである。
しかるに本件更正処分は、右の控除を全く認めないので違法である。もつとも原告会社及び平和興行としては本来右共同経営に基く損益折半の特約により各事業年度毎に損益を計算して配分すべく、たとえ現実の決済をしなくとも、原告会社において平和興行に対する配当金を支払勘定にたてて処理すべきであつたことは被告主張のとおりであり、かかる処理を行わなかつたことは原告会社の経理上の誤であるが、しかし、分配金を未払金として計上しておかなかつたからといつて債務が消滅するわけではないから、後の事業年度で一括して計上してもやむをえない措置として認めるべきである。
第二 被告代理人は、請求の原因に対する答弁及び被告の主張として次のとおり陳述した。
一請求原因一記載の事実は認める。同二記載の主張は争う。同三(一)(1)記載の事実のうち本件建物がもと松尾の所有であり、西日本相互銀行が原告主張の日にこれを買い受けたこと、平和興行が昭和二三年四月三〇日設立されたこと、昭和二三年一二月一〇日松尾が西日本相互銀行と折衝し、同年末で明渡すこととなつていた本件建物の三、四階について明渡しの特約を廃棄し、これについて賃借期間を昭和二四年一月一日以降一〇年間、賃料毎月金七〇、〇〇〇円とする新たな賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結したこと、右三、四階において福岡雅叙園ホテルが昭和二四年一二月から開業したことは認めるが、その余の事実は否認する。同(2)記載の事実のうち昭和二九年二月一七日原告会社が西日本相互銀行との間で本件建物の三、四階を明け渡し、屋上の建築物及び右三、四階に存する什器備品等を売り渡す旨の契約をし、西日本相互銀行は右売渡物件の代金及び賃貸借契約残存期間の営業権に対する補償金として、金四六、〇〇〇、〇〇〇円を支払うこと、原告会社は右代金受領と同時に右家屋の明渡並びに建築物及び什器備品等の引渡を履行すること。但し、屋上建築物に居住する者の立退きに限り同月二一日まで立退きを猶予し、遅くとも翌二二日までにこれを立退かせることを約したこと同日金四六、〇〇〇、〇〇〇円の金銭の授受があつたことは認めるが、その余の事実は争う。同(3)ないし(6)記載の事実は争う。原告のその余の主張はすべて争う。
二本件審査決定の通知書には、適法な理由の附記がある。
法人税法第三五条第五項は、審査決定の通知書にその理由を附記すべき旨規定しているが、右規定の目的とするところは、処分の内容を明らかにして納税者に更に争訟を継続すべきか否かを判断する機会を与えるとともに、行政庁の判断が専断に流れることを防止しようとするにある。また審査は、続審的に原処分を審理するものであるから、審査決定の適否は原処分と一体としてこれを判断すべきものである。従つて処分の理由を審査決定にどの程度記載すべきかは、右の目的に従つて考えられなければならない。本件審査決定の理由は原告主張のように、単に「貴法人の審査請求の趣旨、経営の状況その他を勘案して審査しますと、目黒税務署長の行つた更正処分には誤りがないと認められますので、審査の請求には理由がありません。」となつて居り、右記載自体からは必ずしも処分の内容が明らかにされているとはいい難いかもしれないが、原処分の内容、審査請求の事由、審査決定に至るまでの経緯等をあわせ考えるならば、原告が自ら申し立てた審査請求に対する被告の見解は充分理解することができる。すなわち、本件審査決定に至るまでの経緯についてみるに、目黒税務署長は、本件更正処分をなすに当り、東京国税局調査査察部作成の調査結果書(乙第一六号証)を添附してその処分内容を原告会社に通知した。従つて原告会社の確定申告がいかなる点につき、どのように是認され又は否認されたかは、右調査結果書の科目及び金額によつて容易に明らかにすることができるはずである。さればこそ原告会社は右更正処分に対し、審査請求をなすに当り、更正を受けた諸点を検討した上「仮受金中否認額金三〇、五五〇、七一五円」のみを取上げ、詳細な理由を附してこれの是正を申立てたのである。これに対し被告は右不服申立の理由が認めがたいとの判断に立ち、原処分を維持して審査請求を棄却する決定をなし、前記決定通知書を原告会社に送達したものである。従つて、右決定理由の記載の仕方に多少不適切を欠くきらいはあつたとしても、以上説明したとおり、いかなる理由で棄却されたかは、原告自身には充分了知されていたものであるから、前記法条の立法趣旨に照らし、本件審査決定の通知書には、適法にして充分な理由の附記があつたものというべきであり、原告の主張は失当である。
三本件事業年度における原告会社の損益計算は別紙第一表被告本訴主張額欄記載のとおりであるが、原告が本件事業年度において買受金として処理したことを正当として主張する金四六、〇〇〇、〇〇〇円は右事業年度の収入として確定したものであるから、本勘定処理をすべきものであり、目黒税務署長が否認したのは正当である。その理由は次のとおりである。
(一) 原告が仮受金として主張する金四六、〇〇〇、〇〇〇円は、前述のとおり原告会社が西日本相互銀行から本件建物の三、四階について賃貸借契約残存期間の営業権の補償及び建築物その他の売渡物件の代金として支払を受けたものであるから、本件事業年度の会計処理としては、金四六、〇〇〇、〇〇〇円を現金勘定として借方に記載し、貸方に右売渡物件の簿価金一五、四四九、二八五円を資産勘定として記載し、さらにその差額金三〇、五五〇、七一五円を雑収入勘定として、貸方に記載すべきである。なお西日本相互銀行では金四六、〇〇〇、〇〇〇円を原告会社に支払つた際これを仮払金として計上したが、これはそのうち営業権に対する補償金二九、九六二、〇〇〇円(但し原告は、右金員のうちに賃借権の補償金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を含むと主張するが、西日本相互銀行としてはそのようなつもりはなく、残存賃借期間に原告会社が営業できないことに対する補償の趣旨であつた。)につき、これを損金として計上すべきか、又は資産勘定に繰り入れて計上すべきかについて問題があり、当時福岡国税局に上申中であつたため、これを一応仮払金として処理したものであつて、要するに同銀行の単なる内部事情によるものであり、原告会社の本件事業年度の決算とは何ら関係がない。
(二) 原告は、福岡雅叙園ホテルは原告会社と平和興行との共同経営にかかるものであり、平和興行は合計金三、五〇二、五四三円七六銭の有形資産(但し原告は本件売渡物件には含まれていないと主張する。)及び賃借権を提供していた関係で本件契約には原告会社の外平和興行も契約当事者となつており、原告会社がその包括代理人となつたと主張するが、原告会社と平和興行との間に原告主張のような共同経営の実体は存在しなかつたし、西日本相互銀行との契約において平和興行が当事者となつている事実はない。
(1) 福岡雅叙園ホテルは、原告会社の福岡営業所として事業経営が行われたものであつて、原告会社はその事業損益を各事業所(営業所)毎に計算しているが、右ホテルについては、その事業のため自ら設備した資産については毎事業年度ともその減価償却を行つて損金計算を行つているものの、平和興行が提供したという資産については原告会社の会計上何ら受入処理がなされていない。原告が平和興行において共同事業のため使用に供したと主張する資産は、主として本件建物において営まれていた映画館、ダンスホール関係のもので、これは福岡雅叙園ホテル関係の事業には供されず、同ホテル及び福岡市所在の大博劇場に在庫保管されていたが、平和興行は昭和二五年一二月六日右資産を訴外別府悟に代金二、五〇〇、〇〇〇円で売却している。原告は、右別府から売却代金は約束手形によつて支払われたところ、右約束手形の支払がなかつたので、昭和二八年一〇月三一日平和興行は右売渡契約を解除したと主張するが、その事実は否認する。売却代金として支払われた約束手形は支払済である。要するに平和興行が福岡雅叙園ホテルの事業に資産を提供した事実はこれを認めることができない。
(2) もし原告会社と平和興行との間に共同事業の実体が存するならば、企業会計原則上はもちろん、税務上も各事業年度毎に共同事業により生じた損益を計算し、たとえその際現実の決済をしなくとも少くとも未払勘定に計上しておくべきことは当然である。しかるに原告会社は福岡雅叙園ホテルの事業につきそのような会計処理を全く行つていない。とくに原告の主張によると、営業上の損益は各期毎に計算のうえ折半し相互に受渡しすべきものであつたというのであるから、もしそのとおりであるとすれば、たとえ現実の分配を後日に延期するにしても、各期末には利益分配に関する債権債務が発生している筈であるから、これを会計上損益面に計上すべき筋合である。しかるに原告会社の会計処理において共同経営に関する期間計算に基いて利益の分配を行つた形跡は全くなく、卒然として福岡雅叙園ホテルの閉鎖に伴い既住事業年度の損益を本件事業年度の翌事業年度(昭和二九年四月から同年九月まで)に一括して計上したのである。原告会社がかる不合理な会計処理を行つたのは、とりもなおさず原告会社が共同事業の実体がないにもかかわらず、売却益を隠匿するため、便宜勝手な方法を講じたものに外ならないことが明らかである。
(3) 原告は、本件賃貸借契約には松尾が代表者となつている会社に対しては賃借権を譲渡転貸することができる旨の特約がついていたので、松尾は右契約締結後直ちに本件建物の三、四階の賃借権を平和興行に譲渡したと主張するが、本件賃貸借につき右のような特約がなされたことはない。そもそも本件賃貸借契約が結ばれるにいたつたいきさつは、かねて原告会社が福岡市内においてホテルを開業する計画を持つていたところから、松尾個人の名義で西日本相互銀行に対し本件建物の三、四階の貸与方を申し出たところ、同銀行は松尾が本件建物の元所有者であり、同人から右建物を買収したためにその明け渡しその他に関し密接な関係があつたところからやむなくこれを承諾して本件賃貸借契約を結んだものである。したがつて賃貸の目的は、ホテル、食堂、社交的集会場及びこれに附随する業務に限定されていたのであり、しかも福岡雅叙園ホテルとして使用することがその前提であつたから、松尾が代表者となつている原告会社を想定して、松尾はその代表する会社以外の第三者には右賃借権の譲渡、転貸をなしえない旨の特約をした。もし賃貸借の目的である建物がキャバレー、ダンスホール等に使用されるものであつたならば、その階下を本店営業所として使用していた西日本相互銀行としては賃貸を承知しなかつたはずであるし、また原告会社と平和興行との共同経営のもとに福岡雅叙園ホテルを経営するということは全く知らされていなかつたので同銀行としては本件賃借権が平和興行に譲渡されることは全く予想していなかつたのである。また昭和二四年一〇月二八日に本件建物の三、四階につき福岡雅叙園ホテルの開業のため転貸契約を結んだ際に転借人として契約を結んだのは原告会社であつて平和興行ではなかつた。要するに本件建物の三、四階に関する賃借権が本件賃貸借契約締結直後に松尾から平和興行に譲渡されたことも、平和興行が右賃借権を福岡雅叙園ホテル事業のため提供したこともないのであり、したがつて昭和二九年二月一七日西日本相互銀行が原告会社に対し金四六、〇〇〇、〇〇〇円を支払つた際、平和興行の賃借権に対する対価を含ましめるつもりのなかつたことは明白であり、原告会社もこのことは十分了知していたのである。
(4) したがつて福岡雅叙園ホテルは原告会社により単独で経営されていたものであり、昭和二九年二月一七日西日本相互銀行との間に結ばれた契約においても原告会社が単独で、その経営にかかる右ホテルに使用している本件建物の三、四階の明渡し及び建築物付什器備品その他の設備資産の売渡しを約したものに外ならず、しかも原告会社があたかも平和興行との間に共同経営の実体があるかのごとく会計処理をしたのは右ホテル閉鎖に伴う多額の売却益に対する法人税課税を免れるため、同族関係にある両者間(代表者はいずれも松尾であり、同族者の会社における本会計処理時の持株の割合はそれぞれ五四パーセント、四六パーセントである。)で適当に会計上の操作をなし、原告会社と平和興行との間に前述のような清算配分協定があつたとして当時莫大な赤字を出していた平和興行に対し金一〇、〇〇〇、〇〇〇円及び金一一、五九〇、〇二五円五〇銭を支出したものとしたのに外ならない。
四原告が本件事業年度において平和興行に対して仮払金として処理したことを正当と主張する金一〇、〇〇〇、〇〇〇円、平和興行に対する債務として負債勘定に計上すべき旨を主張する金一一、五九〇、〇二五円五〇銭はいずれも原告会社として平和興行に支払義務のないものであるから、これを原告会社の本件事業年度における損失として計上するのは不当である。すなわち、右各金員はいずれも原告会社と平和興行との間に福岡雅叙園ホテルの事業に関し損益を折半する共同経営の実体が存することを前提として原告会社が平和興行に仮払金として交付し、あるいは債務を負つたと主張するものであるが、福岡雅叙園ホテルの事業が原告会社の単独経営にかかるものであり、平和興行との間に共同経営の実体のなかつたことはすでに述べたとおりであるから、このうち金一〇、〇〇〇、〇〇〇円は本件事業年度において、金一一、五九〇、〇二五円五〇銭は翌事業年度においてそれぞれ寄附金として計上すべきものである。(なお右金一〇、〇〇〇、〇〇〇円については更正及び審査の段階では原告が平和興行から福岡営業所の一切を引き継いだ対価であると主張したので、一応これを認めたが、翌事業年度においては既述のような事情が判明したので認定寄附金として処理済みである。)。
五原告は、本件事業年度において原告会社が昭和二九年二月一七日西日本相互銀行に売り渡した本件建物の屋上建築物等、什器備品等の資産につき減価償却費金一、六一九、三七五円を計上しているが、原告会社は本件事業年度末において右資産の所有権を有しなかつたのであるからその減価償却費を計上すべきではない。
すなわち、原告会社は右日時に西日本相互銀行との間で本件建物の三、四階を明け渡し、右資産を売り渡す旨の契約を締結すると同時に右建物を明け渡し(但し屋上居住の料理人等の立退は同年二月二二日完了)かつ右資産の引渡を了してその所有権を移転したものである。
証拠関係<省略>
理由
一原告会社が、本件事業年度の法人税につき、昭和二九年四月三〇日、所得金額を金一八、五六四、三六三円として確定申告したところ、目黒税務署長は、昭和三一年三月二〇日付で所得金額を金四三、八八五、九〇〇円、法人税額を金一八、四一三、七四〇円とする旨の更正処分をなし、同年四月一日原告会社に通知したこと。原告会社は、右処分を不服として被告に対し、昭和三一年四月二八日、審査の請求をしたところ、被告は、昭和三二年一月二三日付で、右審査請求を棄却する旨の決定をなし、同年一月二五日原告会社に通知したこと、は当事者間に争がない。
二 右審査決定に形式的かしがあるか否かについて
本件審査決定の通知書には、法定の理由として、「貴法人の審査請求の趣旨、経営の状況その他を勘案して審査しますと、目黒税務署長の行つた更正処分には誤りがないと認められますので、審査の請求には理由がありません。」と記載されているに過ぎないことは当事者間に争いがない。ところで、法人税法第三五条第五項が、審査決定の通知書に理由の附記を要求する趣旨は、それによつて判断の恣意を防止すると共に、決定のなされた根拠を示して納税者を納得させようとする点にあると解せられるから、附記すべき理由の程度も右規定の趣旨にそつて考えられなければならないが、審査決定のなされた根拠は必ずしも通知書の記載のみで明確にされる必要はなく、審査決定が原処分の当否を判断してなされるものであることからいつても原処分の内容、その他手続の経過等を綜合して、原処分を維持した審査庁の見解が窺える程度の記載があれば足りると解すべきである。そこで本件について考えてみるに、なるほど、本件審査決定通知書の記載は抽象的であつて、それのみでは原処分を維持した根拠が必ずしも明確であるとはいえない。しかし、少くとも被告が、原告会社の不服の事由を検討した結果、原処分庁と同一の見解をもつて原処分を維持し、審査請求を棄却したものであることは、右通知書の記載自体からも窺えるところであり、しかも、成立に争いのない乙第一六号証によると原処分の理由については、原告会社の確定申告が、いかなる点において是認され、又は否認されたかわかる程度に項目を分け、金額を記載した東京国税局調査査察部長作成の調査結果書を添附した通知書をもつて、原告会社に通知してあることが認められるから、前記通知書の記載をもつても、本件審査請求が棄却されるに至つた根拠は、当事者である原告会社自身には充分了知しうるはずである。
しからば、本件審査決定の通知書の理由は、その記載に多少適切を欠く点はあるとしても、法人税法第三五条第五項の「理由の附記」として不充分であるとはいえないから、この点に関する原告会社の主張は失当である。
三 本件審査決定の所得金額が正当であるか否かについて
本件事業年度における原告会社の損益計算は、被告が利益金として計上すべきものとした仮受金中否認額金三〇、五五〇、七一五円及び損金より控除すべきものとした減価償却超過額中金一、六一九、三七五円の点を除き、その余は別紙第一表の被告本訴主張額欄記載のとおり(ただし、計の欄及び当期利益金の欄を除く)であることは当事者間に争がない。
原告は、被告が、本件審査決定において、仮受金中否認額金三〇、五五〇、七一五円を利益に加算し、減価償却超過額中一、六一九、三七五円を損失より控除して所得金額を算定したのは不当であると主張するので、以下これらの争点につき判断する。本件建物がもと松尾国三の所有であつたが、西日本相互銀行が昭和二三年四月二日同人よりこれを買受け所有権を取得したこと、平和興業が昭和二三年四月三〇日設立されたこと、同年一二月一〇日松尾国三と西日本相互銀行との間に右建物の三、四階につき、松尾国三を借主として、賃借期間を昭和二四年一月一日より一〇年間、賃料月金七〇、〇〇〇円とする賃貸借契約が締結されたこと、右建物の三、四階において、昭和二四年一二月福岡雅叙園ホテルが開設されたこと、昭和二九年二月一七日西日本相互銀行が右建物の三、四階の明渡しを受け、屋上に存在する建築物及び三、四階にある什器備品等を買い受ける旨の契約をなし、同日右売却物件の代金並びに賃借契約残存期間の営業補償金として(但し、賃借権等の補償を含むかどうかについては争いがある。)金四六、〇〇〇、〇〇〇円を原告会社に支払つたことは当事者間に争がない。
原告は、福岡雅叙園ホテルは、損益折半の約定に基く、原告と平和興業との共同経営にかかるもので、西日本相互銀行との間の右ホテルの明渡し契約も、原告会社と平和興業を契約当事者としてなされたものであるが、本件事業年度内に、平和興業と前記代金の配分につき協定が成立しなかつたので、金四六、〇〇〇、〇〇〇円全額を仮受金として会計上処理したものであり、西日本相互銀行に譲渡した建築物、什器備品の引渡しが完了したのは昭和二九年三月に入つてからであつて、同年二月中にはその所有権はまだ原告会社に属していたと主張するのに対し、被告は右事実を否認し、前記契約は西日本相互銀行と原告会社間のみで締結されたものであり、売買契約の締結と同時に右物件の引渡しがなされ、かつその所有権が移転したものであると主張するので、この点につき考えてみるに、(証拠―省略)中には、原告会社の右主張に符合する供述があり、(証拠―省略)によると、昭和二三年五月一日付で右ホテルの開設前に、その場所で松尾国三が経営していた福岡平和館の諸設備及び営業権を同人から平和興業へ金五、七〇〇、〇〇〇円で売り渡す旨の売買覚書及び松尾国三から平和興業てあの右代金の領収証が発行されていること、原告会社と平和興業が共同経営のもとに、福岡雅叙園ホテルを開設することが、昭和二四年九月二八日と同年一〇月二〇日原告会社の取締役会及び株主総会において、同年九月一六日と同年一一月二五日平和興業の取締役会及び株主総会においてそれぞれ可決承認された旨の議事録が作成されていること、昭和二四年九月二八日付で同年一月から七月分までの右建物の三、四階の賃貸料の領収証が西日本相互銀行から平和興業あてに発行されていること昭和二九年四月三〇日付で原告会社と平和興業との間に右ホテル閉鎖に伴う処分金の配分に関する覚書が作成されていることの諸事実が認められ、これらの証拠によれば、原告の右主張に沿う事実があるように見受けられないこともないけれどもこの事実と、後記争いのない事実及び諸証拠と対比すると、右甲各号証によつても前記原告主張事実を認めさせるに足りないし、右各証言もにわかに措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。却つて、原告会社と平和興業は、前記ホテルの開設以来その閉鎖に至るまで、いずれの事業年度においても、いまだかつて、原告主張の共同経営により生じた損益の分配をしたことは現実にはもちろん、会計処理上においてもなく、又原告が平和興業において前記ホテルの共同経営のため提供したと主張する資産のほとんどは、昭和二五年一二月六日平和興業より訴外別府悟に売却されていること(後に同売買契約が解除されたか否かは別として。)はいずれも当事者間に争いがなくこの事実と(証拠―省略)並びに弁論の全趣旨を綜合すると次の事業が認められる。すなわち、原告会社と、平和興業とは、ともにその代表取締役である松尾国三の個人的支配力の強い会社であつて、右建物の三、四階の賃借関係や、右ホテルの経営について果して両会社及び松尾国三個人のいずれが賃借権又は転借権者であり、あるいは経営者であるのか分明を欠くような互に相矛盾するように見える行為がなされたことになつており、右のように形式的には平和興業が松尾国三より右建物の三、四階の賃借権の譲渡を受け、右ホテルの共同経営者となつたような体裁もとられてはいるが、真実は、原告会社が、松尾より、同人が賃借権を有していた本件建物三、四階を貸主たる西日本相互銀行の承諾を得て転借し、同所において福岡雅叙園ホテルを開設したもので、右ホテルの経営は原告会社が単独でこれに当り、平和興業との共同経営にかかるものではなかつたこと。そして西日本相互銀行も平和興業への右建物の賃借権譲渡の事実、ないし右ホテルの原告会社と平和興業との共同経営の事実を認めたことはなく前記甲第三号証(賃料領収証)も西日本相互銀行から平和興業あてになつているが、同銀行としては平和興業から立替払を受ける趣旨で同会社あてにしたもので同会社が賃借人であることを認める趣旨でしたものでないこと。従つて右ホテルを西日本相互銀行に売却した際にも、平和興業は契約当事者として関与したことはなく、原告会社が売主となつて、単独で売買契約を締結したのであつて、右ホテルは、屋上にある建築物を含め、その設備一切を、いわゆる居抜きのまま一括して売却されたものであるから、個々の物件の価格を算定することは売却代金を決定する上で特に必要ではなかつたが、前記金四六、〇〇〇、〇〇〇円中には、右売却物件の代金のほか、建物明渡しに伴う賃貸借契約残存期間の営業補償金も含まれて居り、西日本相互銀行としては会計処理上売却物件の帳簿への受入価格を定める必要があつたので、同銀行は、そのころ、原告会社と協議した結果、原告会社の備品目録、資産台帳をもとに現品を照合した上、更に右売却物件の昭和二八年八月三一日現在の棚卸表(乙第二三号証の二)を作成し、昭和二八年度の基準に基づいて資産再評価を行い、その再評価額合計金一六、〇三八、〇〇〇円をもつて売却物件の受入価格として処理し、昭和二九年三月三一日付で西日本相互銀行から原告会社あてに、前記金四六、〇〇〇、〇〇〇円の支払金の処理につき通知した事実はあるけれども、売買契約書作成と同時に行われた(建物の一部については、残務整理のため明渡しを猶予したが、その明渡しも同月中には完了した)こと、以上のことが認められる。
右認定のごとく、原告会社と、平和興業の間には共同経営の実体はなく、前記仮受金四六、〇〇〇、〇〇〇円は、原告会社が西日本相互銀行に売却した福岡雅叙園ホテルの設備一切の売却代金と右ホテルの明渡しに伴う賃貸借契約残存期間の営業補償金の合計であつて、本件事業年度の収入として確定したものであり、また右事実によれば右設備一切の所有権は売買契約締結と同時に西日本相互銀行に移転したものと解するのが相当であるから、被告が右売却物件の簿価金一五、四四九、二八五円(右が売買当時の原告会社の簿価であることは当事者間に争いがない)を差引いた金三〇、五五〇、七一五円をもつて本件事業年度における原告会社の所得と認定して利益に加算し、原告主張の減価償却費金一、六一九、三七五円を損失より控除して損益計算したのは正当である。してみれば原告の右主張は理由がなく、平和興業との共同経営を前提とする原告の仮定的主張もまた理由がない。
以上確定した事実に基き、原告会社の本件事業年度における所得を計算すると、金五三、六八五、九八六円〇六銭(被告主張の当期利益金五三、八八五、九八五円七一銭は違算と認める。)となること明らかであるから、その範囲内において、原告の同事業年度における所得金額を金四三、八八五、九〇〇円と確定してなした本件更正処分及びこれを維持した本件審査決定は正当といわなければならない。
四よつて原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 位野木 益 雄
裁判官 田 嶋 重 徳
裁判官 桜 林 三 郎
第一、二表<省略>